「学習障害(LD)」「運動機能障害(DCD)」など、さまざまな発達・神経系にまつわる障害の“根本”は同じなのか? という問題について、神経科学・発達医学の視点から現在の研究結果について。
◆ 結論(先に要点)
多くの発達関連障害は、脳の「神経発達の異常」または「神経ネットワークの機能的な偏り」によって生じており、根本的な起源は“共通する部分”がある。
ただし、症状の現れ方や障害の範囲は異なり、原因も単一ではなく多因子的(遺伝+環境+脳の可塑性)であるため、一つの根本だけで全てを説明することはできません。
◆ 共通する「根本的基盤」:神経発達障害の視点
1. 脳の構造と機能の発達異常(共通基盤)
ほとんどの発達障害は、次のような共通の脳の仕組みの異常を背景に持っています:
- シナプス形成・刈り込みの異常
→ 必要な神経接続がうまく作られない/不要な接続が残る - 神経ネットワークの接続パターンの偏り
→ 情報の統合・伝達がうまくいかない - 神経伝達物質のバランスの異常
→ 注意、運動、感情、記憶などの調整が困難になる - 脳領域間の協調的な活動の不全
→ 認知・運動・言語など複数機能の連携に問題が出る
2. 遺伝的な要因の重複
最新の遺伝子研究(GWAS等)では:
- ASD、ADHD、LD、DCD、統合失調症、双極性障害などで共通する遺伝子変異や多型が確認されており、
- 特に神経発達、シナプス機能、軸索ガイダンス、カルシウムチャネル、細胞接着因子に関連する遺伝子が複数の障害で共通しています。
🧬 例:CNTNAP2, FOXP2, DCDC2, COMT, BDNF など
3. 環境要因と発達の可塑性の影響(エピジェネティクス)
- 妊娠中の感染・炎症・ストレス・栄養不良などが神経発達に影響を与えることが証明されており、同じ環境因子が**異なる症状(認知、言語、運動、情緒等)。
■ 根本は「神経発達の異常・多様性」にある
✅ 結論から言うと:
多くの発達関連障害(LD、ADHD、ASD、DCD、知的障害など)は、根本的には “脳の発達・神経機能の偏りや異常” に起因している点で共通しています。
ただし、その表れ方(認知、運動、社会性、言語など)や重症度、治療アプローチは異なります。
■ 共通の根本:神経発達システムの調整異常
1. 脳内ネットワークの構築異常
- 脳は発達過程で神経細胞がシナプスを作り、適切に接続・刈り込みを行うことで機能ネットワークを形成します。
- 発達障害ではこの接続・刈り込みの過程に時間的なズレや過剰/過少形成が起きるため、脳内の情報処理効率に偏りが出ます。
例:
| 障害 | 主に障害されるネットワーク |
| LD(学習障害) | 言語野と前頭前野の接続(読字、書字) |
| DCD(発達性協調運動障害) | 小脳-運動野-感覚野の統合回路 |
| ADHD | 前頭前野と報酬系の回路(自己制御) |
| ASD | 扁桃体・内側前頭前野・感覚処理野間の連携 |
2. 神経伝達物質のバランス異常
- ドーパミン、セロトニン、GABA、グルタミン酸などが関与。
- これらは注意・運動制御・感情制御・感覚処理に密接に関係しており、どの障害にも共通して関与が示唆されています。
3. 遺伝的背景と環境の重なり
- 発達障害は単一遺伝子病ではなく、多因子遺伝(polygenic)+環境要因の複合。
- 一部の遺伝子は複数の障害にまたがって関連していることが知られています(例:CNTNAP2, FOXP2, BDNF など)。
- 妊娠中の栄養、感染、ストレス、薬剤曝露なども影響。
■ 違いが出る理由:「どの機能」が「どの程度」影響されるか
たとえ共通の神経発達メカニズムが根本にあったとしても、以下の条件によって表れる障害が分かれます:
1. 影響される脳領域・ネットワークの場所
- 例:小脳と運動皮質なら運動障害(DCD)、視覚性処理と音韻処理なら読字障害(LD)
2. 影響のタイミング
- 脳の機能は時期によって発達速度が異なるため、胎児期〜幼児期の「どの時期」に異常が起きたかで現れ方が変わる。
3. 適応・代償の有無
- 同じ脳機能に弱さがあっても、他の機能や環境・支援により代償されれば、目立った障害にはならないことも。
■ まとめ
| 要点 | 説明 |
| ✅ 根本原因は共通 | 多くの障害が神経発達の偏りや異常に起因 |
| ✅ 違いは影響部位・重症度・タイミング | 表れ方が違うだけで、背景には共通の生物学的基盤あり |
| ✅ 共通遺伝子や神経伝達物質が関与 | CNTNAP2, BDNF, ドーパミン系などが複数障害で関与 |
| ✅ 支援・環境・代償機構も重要 | 同じ脆弱性でも現れる症状は人によって異なる |
■ 関連研究例(最新)
- “A shared genetic architecture between ASD, ADHD, and DLD”(Nature, 2023)
→ 発達性言語障害・ASD・ADHDに共通する遺伝的変異群を特定。 - “Neurodevelopmental Disorders as Network-Based Dysconnectivity Syndromes”(Neuron, 2022)
→ 全ての発達障害は、神経回路網の「接続不全症候群」として統一的に捉えられるとする提案。
では、ここからは:
✅ 各発達障害別の「脳マッピング説明」
✅ 代表的な遺伝子とその影響
✅ 感覚統合療法・神経フィードバックなどの
統合的支援アプローチ
について専門的に伝えられている内容です。
🧠 1. 脳マッピングで見る各発達障害の特徴
※以下は実際のfMRIや構造MRI研究に基づいた説明です。
■ 自閉症スペクトラム障害(ASD)
異常が見られる主な領域:
-
- 扁桃体・海馬:感情・記憶処理の不調和(社会的恐怖など)
- 内側前頭前野(mPFC):自己と他者の区別、共感機能
- 感覚連合野(頭頂葉・側頭葉):視覚・聴覚・触覚の統合困難
特徴:
一部の回路は「過剰接続」、他は「過少接続」
脳の”過成長期”があり、小児期に頭囲が急激に大きくなるケースも
■ 注意欠如・多動症(ADHD)
異常が見られる主な領域:
-
- 背外側前頭前野(DLPFC):注意・ワーキングメモリの調整
- 前帯状皮質(ACC):エラー検出、衝動抑制
- 線条体(尾状核・被殻):報酬予測、行動選択
特徴:
ドーパミン伝達がうまくいかず、報酬刺激に対する反応が弱い
「今やるべきこと」への動機づけが難しい
■ 学習障害(LD:読字障害・書字障害・算数障害)
読字障害(ディスレクシア):
-
- **左側の角回、上側頭回、視覚単語認識領域(VWFA)**の機能低下
- 音韻(音)と文字をつなぐ回路が機能不全
書字障害・算数障害:
-
- 書字では運動制御・視覚空間処理の連携不足
- 算数では頭頂葉の数的処理ネットワークの活性が弱い
■ 発達性協調運動障害(DCD)
関与する脳領域:
-
- 小脳、一次運動野、補足運動野、感覚運動統合領域
- 体性感覚の統合とフィードバック制御の障害
特徴:
手先の不器用さ、運動プランニング困難、姿勢維持の不安定性
🧬 2. 発達障害に関係する代表的な遺伝子
| 遺伝子 | 関与する障害 | 機能 |
| CNTNAP2 | ASD, 言語障害, ADHD | シナプス形成と軸索の接着 |
| FOXP2 | 言語発達障害, ASD | 音声言語の運動制御・発達 |
| DRD4 / DRD5 | ADHD | ドーパミン受容体、注意制御に関与 |
| SLC6A4 | ASD, 不安症 | セロトニントランスポーター |
| MECP2 | Rett症候群(ASDの一形態) | エピジェネティック制御(DNAメチル化) |
※1つの遺伝子で説明できる障害は少なく、多数の遺伝子+環境要因の組み合わせが重要。
🧩 3. 統合的支援アプローチ(神経と行動を同時に調整)
■ 感覚統合療法(SI:Sensory Integration Therapy)
- 特にASDやDCD児に効果が期待されるアプローチ。
- 目的:感覚刺激(触覚・前庭・固有受容)を適切に処理・統合できるように支援。
実施内容:
ブランコ(前庭系刺激)、重いものを持つ運動(固有受容)、素材遊び(触覚)
効果:
自己調整力向上、不安軽減、行動の予測可能性UP
■ 神経フィードバック(Neurofeedback)
- 脳波(特にθ波、β波)をリアルタイムでモニタリングし、自分で制御する訓練。
- ADHDで多用され、注意集中や衝動抑制の改善が報告。
- ASDでもα波やμ波を標的とした研究が進行中。
■ 脳刺激技術(TMS、tDCS)
- 前頭前野や感覚統合領域に**経頭蓋磁気刺激(TMS)や微弱電流刺激(tDCS)**を行い、神経活動を調整。
- 学習や行動トレーニングと組み合わせて行うと効果が増す。
- 研究段階が多いが、臨床応用も進行中。
■ VR・AI型支援ツール
- ASDやLD児に対して、仮想環境での社会技能訓練や認知トレーニングを提供。
- 注意強化、感情理解、コミュニケーション支援など、個別化が可能。
🧠 最後に:なぜ統合的アプローチが必要か?
- 発達障害は脳内の多層的ネットワークの障害であり、単一の療法では十分な支援が難しい。
- 「行動支援+感覚支援+神経調整+環境調整」を組み合わせることで、脳の可塑性(適応する力)を最大限に引き出すことが重要です。
① 最新の研究論文(日本語)からの例
| 研究名・発表 | 内容のポイント |
| 大脳神経活動の硬直性が自閉スペクトラム症の症状を惹起していることを発見(東京大学/渡部教授ら、2025年6月) | 高機能ASDの当事者において、「神経活動の柔軟性」が低い(=活動が硬直している)ことを計測。神経刺激でこの柔軟性を改善すると、認知の硬直性や社会コミュニケーションの特性などが一時的に改善する可能性を示した。 |
| 定型発達成人におけるASD傾向およびDCD傾向と動作観察・遂行時の脳波周波数との関連(2023年) | 定型発達成人を対象として、ASD傾向・発達性協調運動障害(DCD)傾向との関連で、動作観察や動作遂行時の脳波の周波数(特にmu波)に特徴的な変動が見られることを報告。 |
| ASDの前頭前野における興奮抑制機能および神経可塑性の解明:TMS‑EEG研究 | 前頭前野の興奮/抑制バランス、さらには連合刺激法(PAS)での神経可塑性を TMS-EEG を用いて測定。ASDの症状プロフィールごとに、これら神経生理指標がどう異なるかを調査中。 |
| ASD者の聴覚特性の問題を解決するニューロフィードバック手法を用いた訓練法開発(国立障害者リハビリ研究プロジェクト、2023‑2027年) | ASD者が「選択的聴取」「音源定位」の困難を持つという聴覚特性に注目。fMRI・脳波を使って原因領域を明らかにし、その後ニューロフィードバックを使って聴覚の問題を軽減する介入法の開発を目指している。 |
② 脳波の具体的な変化パターン(θ波・α波など)
以下、日本国内外の研究を含めて、ASD・ADHD・DCD などで報告されている脳波変化の具体的パターンです。
| 周波数帯・波形 | 観察される変化・特徴 | 意味/解釈 |
| α波(約8‑13 Hz) | ASDでは α波が“低周波数化”する、安静時に α 波の変動性や強度が減少する傾向が報告される。知的障害児での古い研究で「α波の低周波化」が指摘されている。 | 覚醒/リラックス状態・注意切り替え・抑制機能の一指標。α波が低かったり不安定だと、覚醒状態や注意制御が不安定になる可能性ある。 |
| θ波(約4‑8 Hz) | 知的障害児では θ波の“顕著な出現”が報告されている(特に安静時)。また、動作遂行時・観察時で他者の動きを見ているときの mu 波抑制が弱い、などで間接的に θ/mu 波帯域の機能異常が示される研究がある。 | θ波は注意や記憶、情動・内省的状態に関わる。過剰な θ 活動は“注意散漫”や“集中困難”と関連することが多い。 |
|
mu 波(約8‑13 Hz /時には 8‑12 Hz) |
動作観察、運動イメージ、他者の動作模倣時に抑制されるのが正常。ASD(および DCD 傾向のある人)ではこの抑制が弱いという報告。すなわち他者の動きを見ているときや模倣するときに mu 波の抑制が不十分。 | mu波抑制はミラーニューロン系の機能指標とされる。これが弱いと、運動模倣や社会的模倣・共感動作などの機能に影響する。 |
| 興奮/抑制バランス (E/I バランス) の指標 | TMS‑EEG 研究で、ASDの前頭前野では興奮性(主にグルタミン酸系)と抑制性(GABA系)の反応性・可塑性が健常者と比べ異なるというデータ。刺激前後で誘発電位の変化が小さい、抑制が弱いなど。 | 神経可塑性や注意制御、過敏性・興奮性の制御などに関与。E/Iバランスの乱れは感覚過敏・衝動性・落ち着きのなさ等の行動と結びつく。 |
③ 各療法の実施ガイドやトレーニング内容
以下、主な療法について、実践時のポイント・トレーニング内容・ガイドラインとして参考になる情報を整理します。
| 療法 | 実施ガイド・内容 | 注意点・補足 |
| 感覚統合療法(Sensory Integration Therapy / OTが行う) | ・対象の子どもの感覚処理の困りごとを評価(触覚・前庭覚・固有受容覚など)・遊びや運動を含む活動を通して、感覚入力を段階的に調整して行う(たとえば、ブランコやトランポリン・バランスボールなど前庭への刺激、触感遊び、固有受容運動)・活動は子どもの興味を引くよう工夫し、安全を確保・頻度:週1~数回、セッション時間 30分〜60分、期間は数か月単位 | 効果の出方が個人差あり。標準化されたプロトコルがまだ十分確立されていない。作業療法士などの訓練経験・評価の質が重要。日本では「作業療法ガイドライン 自閉スペクトラム症」において、感覚統合療法は“推奨グレードA”とされている(ただし内容・条件付き)。 |
| ニューロフィードバック (Neurofeedback) | ・まずベースラインの脳波測定(どの波が過多・過少か、どの状態で変動するか)・目標波(例えば α波を増やす/ θ波を減らす/ mu 抑制を強める)を設定・フィードバック手段:画面表示、音やゲームの変化などでリアルタイムに脳波の変動を知覚させる・セッション頻度:週1~3回程度、1セッションが20〜45分程度、期間が数週間~数か月(例3‑6か月)・進捗の評価(行動変化・知覚変化)を並行 | 科学的エビデンスはまだ発展途上。適切なプロトコル・機器の質が重要。ノイズ制御、被験者のモチベーション、家庭・療育環境のサポートなどが影響大。日本でのプロジェクト(ASDの聴覚特性に関するものなど)も進行中。 |
| TMS/tDCS(非侵襲的脳刺激) | ・興奮-抑制バランスを整えるため、前頭前野などをターゲットとする(例、左前頭前野)・刺激強度・頻度を慎重に設定(研究例では MRI ナビゲーションを用いて部位を特定)・刺激の前後で EEG などで神経応答を測定(誘発電位、振幅・遅延など)・セッション時間は短め(数分~20分程度)、複数回にわたる介入 | 安全性に注意(発作リスクなど)。対象者の状態(年齢・発達段階・重症度)に応じて調整。臨床導入はまだ限られている。研究段階のものが多い。 |
| 早期発達支援・学校・家庭環境での療育 | ・早期に発見して支援を始めることが重要(まだ神経可塑性が高いため)・授業環境の調整(騒音・照明・教材)・教師・支援者への理解・訓練(どのような刺激が困難かを把握)・家庭での感覚調整活動(軽い運動・触覚遊びなど)を日常生活に取り入れる | 療育プログラムの質が大きく影響。保護者との連携も欠かせない。定期的なモニタリングが必要。 |
④ 総括:今後のエビデンスが求められる点
- 脳波(EEG)での α波/θ波/mu波などの変化を、「どの療法が・どの人に」最も効果があるか、予測因子を特定する研究がまだ少ない。
- 標準化されたプロトコル(介入内容、頻度、対象年齢など)の整備が進んでいない。
- 長期フォローアップでの効果持続性・社会機能への派生効果(学習・対人関係など)をきちんと追う研究が必要。
- 個別性が高いため、「一律の療法」ではなく「その人に合ったプロトコル設定」が重要。
💬最後にひとこと
実際に改善につながらなくても、最新の研究情報に目を通しておくことも重要かと思います。
体質や気質や障害など、人間の様々な研究結果を見てみると脳波がとても関わっていることがよくわかるかと思います。
事実、私も脳波による影響をかなり長い時間研究していました。
HSP/HSC専門サロン Momoco Academy 山崎ももこ




















