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人間の光の感知の仕組み — 詳細解説

スタッフ日記

人間の光の感知の仕組み — 詳細解説

1. 光の基礎知識

  • 光は電磁波の一種で、人間が感知できる波長は約 380nm(紫)~750nm(赤) の可視光範囲に限られる。
  • それより短い紫外線や長い赤外線は通常感知できない。

2. 眼の構造と光の受容

▶ 主要構造

部位 役割
角膜 光を屈折し眼内に導く透明な膜
水晶体(レンズ) ピント合わせをして光を網膜に集める
網膜 光受容体(視細胞)がある感覚組織
黄斑 網膜の中心部、視覚の鋭敏な部分
視神経 網膜から脳へ信号を送る神経

 

3. 網膜における光の感知メカニズム

3-1. 視細胞の種類

視細胞 機能 波長感度 分布と役割
錐体細胞(cone cells) 色覚(明るい環境) S(短波長:青) M(中波長:緑) L(長波長:赤) 網膜中心(黄斑)に多く、色の識別や高解像度視覚に重要
杆体細胞(rod cells) 明暗の識別(暗所視) 約498nmに最大感度(青緑) 網膜周辺に多く、低照度環境での視覚を担当

 

3-2. 光刺激から電気信号への変換(光受容過程)

  • 光子(光の粒子)が視細胞の光受容分子(ロドプシンや錐体オプシン)に吸収される。
  • ロドプシンは11-シスレチナール(ビタミンA由来の色素)とオプシンタンパク質の複合体。
  • 光吸収により、11-シスレチナールがオールトレチナールに異性化し、ロドプシンが活性化される。
  • 活性化されたロドプシンはGタンパク質(トランスデューシン)を活性化し、細胞内でcGMPの分解が促進される。
  • cGMPが減少すると、cGMP依存性イオンチャネルが閉じ、Na⁺の流入が減り、視細胞が過分極(電気的に落ち着く状態)する。
  • この過分極がシナプス伝達物質の放出を変化させ、二次ニューロン(双極細胞)に信号が伝わる。

4. 網膜内での信号処理

  • 双極細胞が視細胞から信号を受け取り、神経節細胞へ情報を伝達。
  • 網膜には水平細胞・アマクリン細胞などの介在細胞があり、信号の調整やコントラスト強調、動き検出などの高度な前処理を行う。
  • 神経節細胞の軸索は視神経を形成し、信号を脳の視覚野へ送る。

5. 脳での視覚情報処理

  • **視神経(optic nerve)は視交差(optic chiasm)で一部交差し、視索(optic tract)として視床の外側膝状体(LGN:lateral geniculate nucleus)**へ投射。
  • LGNでの中継後、視覚情報は**一次視覚野(V1、後頭葉)**へ送られ、形状、色、動きなどの解析が開始される。
  • さらに二次視覚野(V2, V3, V4, MTなど)で色覚、形態認識、動態検出が高度化される。

6. 色覚のメカニズム

  • 錐体細胞の3種類(S, M, L)からの信号が脳内で比較され、色の三原色処理が行われる。
  • 視覚野では、対比色(赤–緑、青–黄)の処理や、色の恒常性を保つ補正も行われる。

7. 明暗視・暗順応

  • 杆体細胞は暗所での光感知に特化し、色は識別できないが、明暗の微妙な差を検出。
  • 暗順応は、ロドプシンの再合成(オールトレチナールから11-シスレチナールへの戻り)に時間がかかるため、数分〜30分程度で最大感度に達する。

8. 光の強度と視覚反応

  • 明るさは、視細胞の活動と神経回路の反応でコード化される。
  • 網膜は光の強度変化に対して対数的な応答特性を持ち、幅広い光環境に適応可能。
  • 適応機構には視細胞の感度変化、神経細胞の抑制、瞳孔収縮などが関与。

9. 非視覚的光感知(眼以外の感知)

  • 網膜には視覚以外の光受容細胞として**ipRGC(intrinsically photosensitive retinal ganglion cells)**があり、メラノプシンという光感受性色素を持つ。
  • これらは脳の**視交叉上核(SCN)**に投射し、体内時計の調整(サーカディアンリズム)や瞳孔反射を制御。

 

まとめ

プロセス 内容
光の入射 角膜→水晶体で屈折し網膜に到達
光受容 網膜の視細胞が光を電気信号に変換
初期処理 双極細胞・水平細胞・アマクリン細胞で信号加工
伝達 神経節細胞→視神経→視床LGN→一次視覚野
脳処理 色・形・動き・明暗を高度に解析
非視覚的反応 ipRGCを介し体内時計・瞳孔反射調節

 

では次に「人間の光の感知」に関する分子レベルのメカニズム、遺伝子発現、そして疾患との関連について詳しく解説します。

1. 光感受性色素の分子構造と機能

1-1. ロドプシンとオプシン

  • **ロドプシン(Rhodopsin)**は杆体細胞の光感受性色素。
  • **錐体細胞のオプシン(Opsins)**は3種類あり、波長特異的に光を感知する:
    • S-オプシン(青、約420-440nm)
    • M-オプシン(緑、約530-540nm)
    • L-オプシン(赤、約560-570nm)

分子構造の特徴

  • オプシンはGタンパク質共役受容体(GPCR)ファミリーに属し、7回膜貫通構造を持つタンパク質。
  • これに結合する光感受性色素は11-シスレチナールというビタミンA由来の分子。
  • 光子の吸収で11-シスレチナールがオールトランス型に異性化し、オプシンが活性化される。

活性化のシグナル伝達

  • 活性化したオプシンはトランスデューシンというGタンパク質を活性化。
  • トランスデューシンは**ホスホジエステラーゼ(PDE)**を活性化し、cGMPを分解。
  • cGMPの減少で、ナトリウムチャネルが閉じて視細胞が過分極。
  • これが電気信号に変換されて視神経へ送られる。

 

2. 遺伝子発現と光受容体

2-1. オプシン遺伝子

  • 人間のオプシン遺伝子は染色体上に特定の位置に配置される:
    • OPN1SW(短波長S-オプシン遺伝子)は7番染色体上。
    • OPN1MW(中波長M-オプシン)とOPN1LW(長波長L-オプシン)はX染色体上に連続して存在。
  • このため、X連鎖性の遺伝病(色盲など)が多いのはこの部分。

2-2. 遺伝子発現の制御

  • オプシンの発現は発生過程で空間的・時間的に厳密に制御され、正常な色覚の形成に重要。
  • 転写因子(Thyroid hormone receptor β2、NR2E3など)がオプシン遺伝子の発現を制御する。
  • 発現異常は色覚異常や網膜疾患の原因となる。

 

3. 光感受性色素の異常と疾患

3-1. 色覚異常(色盲)

種類 原因 内容
プロタン L-オプシン遺伝子欠損・変異(赤色系障害) 赤の認識低下、赤緑色盲の一種
デューテラン M-オプシン遺伝子欠損・変異(緑色系障害) 緑の認識低下、赤緑色盲の一種
トリタン S-オプシン遺伝子変異(青色系障害) 青色識別障害(稀)

多くはX染色体連鎖性遺伝で、男性に多い。

3-2. 網膜変性症

  • 網膜色素変性症(Retinitis pigmentosa):杆体細胞の機能不全・死滅が進行。
  • 遺伝子変異が光受容タンパク質や光シグナル伝達に関わることが多い。
  • 夜盲や視野狭窄、最終的には失明に至ることもある。

3-3. 先天性無虹彩症・その他疾患

  • オプシン遺伝子の発現異常や細胞内タンパク質輸送の障害による。
  • 光受容機能が失われることで視力低下・光過敏症などが生じる。

 

4. その他の光感知関連分子

4-1. メラノプシン(Melanopsin)

  • 網膜の**intrinsically photosensitive retinal ganglion cells (ipRGCs)**が発現。
  • 約480nmの光に感度があり、**視覚以外の反応(体内時計調節、瞳孔反射)**に関与。
  • 遺伝子はOPN4。

4-2. 光によるシグナル伝達調整

  • 光刺激は神経伝達物質(グルタミン酸、GABAなど)の放出や受容体の調整を介して、網膜内で信号強度や質を調整。
  • 視細胞と他の網膜細胞間のシナプス可塑性も光感知機能の適応に重要。

まとめ

項目 内容
分子機構 オプシン+11-シスレチナールが光を吸収、Gタンパク質を介して信号変換
遺伝子 OPN1SW(S錐体)、OPN1MW・OPN1LW(M/L錐体)、X染色体に色盲遺伝子が多い
疾患 色盲、網膜変性症など光感知分子の異常が原因
非視覚的光感知 メラノプシン(ipRGC)が体内時計調節を担う

 

次に「色の見え方が人それぞれ違う理由」について、専門的に詳しく説明します。

色の見え方が個人差を生む主な要因

1. 錐体細胞の個体差(光受容体の違い)

1-1. オプシンの遺伝的多様性

  • 人間の色覚は主に3種類の錐体細胞(S・M・L)が持つオプシンタンパク質によって決まる。
  • これらのオプシンは、**遺伝子の違い(アレル変異)**によって微妙に感度波長が異なる。
    • 例えば、L-オプシン(赤に敏感)で数nm単位の波長感度のズレがある個人がいる。
  • こうした波長感度の違いが、色の見え方や色の識別能力に影響を与える。

1-2. 錐体細胞の比率と分布の個人差

  • M錐体とL錐体の比率は人によって異なり、L錐体が多い人は赤っぽい色をより強く感じることがある。
  • 錐体の総数や分布の違いも色の鮮明さや解像度に影響。

2. 神経回路の個人差

2-1. 網膜内の信号処理の違い

  • 網膜の水平細胞やアマクリン細胞の働きや結合パターンは個体差があり、色や明暗のコントラスト感覚に差が出ることがある。

2-2. 脳の視覚野の処理差異

  • 大脳皮質の視覚野での色の統合・補正処理にも個人差がある。
  • これにより、色の知覚や色の恒常性(照明条件が変わっても色が変わって見えにくい現象)の程度に差が生じる。

3. 色覚異常の存在

  • **色覚異常(色盲)**は一般的に男性に多く見られ、
  • L錐体やM錐体の機能欠損・欠如で赤緑色覚異常が生じる。
  • 軽度の異常から重度まで幅があり、色の感じ方が大きく異なる。

4. 環境・経験の影響

4-1. 照明条件や背景の影響

  • 色の見え方は照明の波長成分や強度によって変わるため、環境による違いが生じる。
  • 脳は周囲の色や照明条件を参照して補正処理をするが、この補正の精度にも個人差がある。

4-2. 個人の経験・学習

  • 色の認識には言語や文化、個人の経験も関与し、色の名前の理解や色の分類に違いがある。

5. 加齢・健康状態の影響

  • 加齢により水晶体が黄変し、青色系の光が吸収されやすくなるため、色の見え方が変わる。
  • 眼疾患(白内障、黄斑変性など)や薬物の影響も色覚に影響。

 

まとめ

要因 内容 影響例
遺伝的差異 オプシン遺伝子の多様性、錐体比率 波長感度のズレによる色の違い
神経回路差異 網膜や脳の信号処理の違い 色の鮮やかさ・色調の認識差
色覚異常 錐体の機能欠損 色盲や色弱
環境・経験 照明条件、文化、言語 色の補正や認識の違い
加齢・健康 水晶体変化、眼疾患 色覚の変化や低下

 

光を感じられない(視覚障害・盲目)の人が光を捉えるための方法

1. 生体内の光検知機能の活用(残存視覚)

  • 一部の完全盲の方でも、網膜や視神経にわずかでも光感知細胞(特にipRGC:intrinsically photosensitive retinal ganglion cells)が残っている場合、光の有無や明暗を感じ取れることがある。
  • これを利用したリハビリも検討されているが、感度は非常に低い。

2. 人工視覚補助デバイス(ニューロプロテーゼ)

2-1. 網膜インプラント(例:Argus II)

  • 網膜の光受容細胞が壊れている場合、カメラで撮影した映像を電気信号に変換し、網膜の神経細胞を直接刺激。
  • 盲目の人が光や形の違いを感知できるようになる。
  • 現状では解像度は低いが、光の有無や大まかな形状が分かる。

2-2. 視神経インプラント

  • 網膜や眼球に損傷がある場合、視神経に直接刺激を与える技術。
  • 実験段階が多いが、光の刺激を電気信号として脳に伝えることを目指す。

2-3. 脳皮質インプラント(視覚野への直接刺激)

  • 網膜や視神経が完全に機能しない場合、後頭葉の視覚野に電極を埋め込み直接刺激。
  • 光や簡単な視覚パターンを「感じる」ことを目指す最先端技術。
  • 現状は研究段階だが将来の可能性大。

3. 非視覚的光検知代替システム

3-1. 視覚代替補助具(感覚代替)

  • 触覚・聴覚による光情報の変換。
  • 例:光を感知して触覚刺激(振動)や音の高さ・強さに変換するデバイス。
  • こうした補助具で周囲の光の強さや対象物の形状を「感じ取る」ことが可能。

3-2. 赤外線や超音波センサーによる環境認識

  • 人工センサーが光や距離情報を収集し、触覚や音声で情報提供。
  • 直接「光を見る」わけではないが、視覚の代わりとなる情報取得手段。

4. 光感知分子の外部導入(将来的研究)

  • 光感知タンパク質(オプシン)を細胞に導入し、光感受性を人工的に付与する遺伝子治療の研究も進行中。
  • 現状は動物実験レベルだが、人間への応用が期待されている。

 

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