SLD (限局性学習症)/LD (学習障害)とは
現在、最新の診断基準である DSM-5 では、 SLD = Specific Learning Disorder (限局性学習症)に名称が変更されましたが、過去にはLDと呼ばれていました。
LD は 「Learning Disorder(学習障害)」 または 「Learning Differences(学び方のちがい)」や「Leaning Diversity(学び方の多様性)」 の略です。医療の場面ではDisorder 、教育の場面では”Differences”” Disability”と 多く使われているようです。日本語では「学習障害」と呼ばれています。
SLDは全体的には理解力などに遅れはなく、知的な発達に遅れはないのに、「読む」、「書く」、「計算する(算数)」といった特定のことがうまくできない限局性学習症と呼ばれる発達障害です。
決して勉強のできない障害ではなく、大多数の人とはちがう学び方のほうが覚えやすかったりスムーズに学べる人たちのことを指します。
発達障害は先天的な障害であり、成人になって発症することはありません。最近では「大人の発達障害」と言われることが多くなってきましたが、大人になるまで発達障害に気付かず、大人になってから診断を受けたり、自覚したりするケースを言います。
この障害の原因は、単に学習の機会が足りないからではなく、精神遅滞や神経学的欠陥、脳損傷や疾患によるものでもありません。DSM-5には以下のように示されています。
早産や極低体重出生は、出生前のニコチンへの曝露と同様に、限局性学習症のリスクを高めます。学習困難をもつ人の第一度親族では、それを持たない親族に比べて、読字または計算の限局性学習症のリスクが明らかに4~10倍高いことが分かっています。
読字困難(失読症)、読字能力および読字能力低下、学習能力低下のほとんどは、高い遺伝性が見られます。
学習困難の主な原因が、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害等の障害、環境的な要因である場合は、学習障害ではありません。
結果として「読み」、「書き」、「計算する(数学)」の苦手さや困難さとして現われている状態が SLD です。「聴覚的/視覚的短期記憶」や「ものの順番を認識する能力」、「聞いたことや見たものを処理する能力」など様々な認知能力の凸凹があります。
読み書きに障害のある人は、そのどこかに脳機能の障害が見られ、文字の区切り目を認識することができず、文字が読めないといった苦手さとして表れます。
他にも、文の読み書きは何の問題もなくできる学生が、簡単な計算ができない等の困難さに直面することがあります。
学習障害の定義
学習障害の定義には、文部科学省が定義したものと、DSM-5やICD-10の医学的判断による定義があります。概念は似ていますがまったく同じ概念ではありません。
文部科学省が定義したLearning Disabilitiesは「聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力」と広い領域の障害が含まれる一方、医学的判断として用いられるアメリカ精神医学会の診断マニュアルであるDSM-5では「読み、書き、計算」と領域が限定されています。
LDやADHDなどが 「通級による指導」 の指導対象となったのは2006年度からです。
➀口頭言語 「聞く・話す」、書字言語「読み・書き」 、算数領域の 「計算・推論」、この6 領域の学習困難であること。
②その困難を背景に、中枢神経系の機能障害、つまり本人の脳の発達の特異性を想定していること。
③他の障害や困難との重複を避けていること。つまり社会性の困難や運動能力困難、注意の集中欠陥や多動性などにみられる行動の調整困難などは、重複や合併しやすい症状とみて外していること。
④環境的な要因についても排除していること。
・文部科学省の学習障害の定義
「学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。」と定義されています。
・アメリカ精神医学会の診断マニュアル DSM-5の定義
「学習や学業的技能の使用に困難があり、その困難を対象とした介入が提供されているにもかかわらず、以下の症状の少なくとも6ヶ月持続していることで明らかになる」とされています。
DSM-5では、限局性学習障害の定義には「読み」「書き」「計算」に限定されます。
・読字の障害:読字理解、速度、正確性における特定の問題
・書字表出の障害:文法、文構成、文章作成における特定の問題
・算数の障害:計算、数字、記号の模写、それらの理解における特定の問題
特徴
「読み」の困難
・形の似た字を間違える
・どこで区切って読めばいいかわからない
・文字をひとつひとつ拾って読む(逐次読み)
・読むことがすごくゆっくり
・スムーズに読めずつっかえたり拗音や促音を間違えたり、読み飛ばしたりする
・文末などを適当に変えて読んでしまう
・読んで理解することが大変で頭に入らない
・日本語は読めるが英語を読むことが極端につらい
・教科書の文字を読むことに時間がかかる
・教科書を読むことが人よりも何倍も時間がかかる
・文字がゆがんで見える、逆さ文字に見える
・板書の際にどの文字をどこに写していたのかわからなくなってしまう
・困難な状況としては、読み飛ばしや読み替えによる間違いが多い
・文字は読めても単語や文として読むことが難しい
・内容を理解することが難しい
「書き」の困難
・単語を正確に書くことが難しい
・板書を書き写すのに時間がかかる
・鏡文字を書いてしまう
・文字を書くスピードが遅い
・漢字を覚えられない
・文字をバラバラの大きさで書いてしまう
・主語・述語などの文法構造の理解が難しい
・助詞の誤用が多い
・文章(作文)を書くことが難しい
・漢字を部分的に間違う
・丁寧に書いても読みづらい字になる
・書き間違いが多い
・漢字を書くのがおっくう
・文法を間違える
・英単語のスペルが覚えられない
「計算」の困難
・算数・数学の概念や計算を学ぶことが難しい
・簡単な計算ができない
・数字の持つ順番を認識することが難しい
・3番目と3つの違いが理解できない
・数字の大小がわからない
・暗算が大の苦手で計算に時間がかかる
・筆算も嫌い、または難しい
・分数などの概念の理解が難しい
・数字の大小や関係性など、数に関する概念の理解が難しい
・数字や計算ができない
・数字を読んだり、描いたりすることに困難がみられる
・文章題を解くことに困難がある
・表やグラフを含む問題を解くことに困難がある
・図形やグラフが苦手で、うまく理解できない
など
その他・大人のSLD
二次的障害
学習障害には、自閉スペクトラム症や注意欠如多動性障害、発達性協調運動障害などの神経発達症が併存することや、不安症や抑うつ障害など併存がみられることが報告されています。